夫婦で老後のお金を考えるとき、多くの方が最初に確認するのは、
「私はSocial Securityを毎月いくら受け取れるのだろう」
ということではないでしょうか。
しかし、夫婦の場合は、自分自身の年金額だけを見ていても十分とはいえません。
もう一つ確認しておきたいのが、
「もし配偶者が先に亡くなったら、その後の家計はどうなるのか」
ということです。
アメリカのSocial Securityには、働いていた本人の老齢年金だけではなく、一定の条件を満たす配偶者や子どもなどを対象としたSurvivor Benefits(遺族年金)があります。
遺族年金というと、「配偶者が亡くなった後に受け取る年金」という制度の説明だけで終わりがちですが、本当に大切なのは、それによって残された家族の毎月の収入がどう変わるのかを理解しておくことです。
今回は、遺族年金の制度そのものだけではなく、夫婦で元気なうちに確認しておきたいポイントを家計の視点から考えてみます。
夫婦で受け取っていた2人分の年金が、そのまま残るわけではありません
例えば、退職後に夫婦で、
- 夫のSocial Security 月3,000ドル
- 妻のSocial Security 月1,500ドル
を受け取っていたとします。
夫婦が二人とも元気な間は、世帯として月4,500ドルのSocial Security収入があります。
では、夫が先に亡くなった場合、妻は自分の1,500ドルに加えて、夫の3,000ドルを遺族年金として受け取り、引き続き4,500ドルを受け取れるのでしょうか。
基本的には、そうではありません。
自分自身の老齢年金と遺族年金を、両方そのまま満額で足して受け取ることはできません。
条件を満たせば、より高い遺族年金を受け取れる可能性がありますが、「2人分の年金が1人になってもそのまま残る」わけではないのです。
この点は、老後の生活設計を考えるうえで非常に重要です。SSAも、自分自身の給付と遺族給付の両方に資格がある場合、原則として両方を合算するのではなく、より有利な給付を選択し、場合によっては後から別の給付へ切り替えられると説明しています。
一人暮らしになれば、食費など一部の支出は減るでしょう。
しかし、住宅費、固定資産税、HOA、光熱費、自動車、保険など、半分にはならない支出もたくさんあります。
そのため、老後資金を考えるときには、
「夫婦二人で生活しているとき」だけではなく、「どちらか一人になったとき」
の収入と支出も考えておく必要があります。
年金額が高い配偶者の受給開始年齢は、本人だけの問題ではありません
Social Securityを何歳から受け取り始めるかは、よく議論されるテーマです。
早く受け取れば、それだけ早く現金を受け取れます。
一方、受給開始を遅らせれば、一定の年齢までは毎月の老齢年金額を増やすことができます。
ここで見落とされやすいのが、夫婦のうち年金予定額が高い人の受給開始年齢は、将来の遺族年金にも関係する可能性があることです。
例えば、一方の配偶者が長く働き、高いSocial Security Benefitを受け取る予定で、もう一方は育児や家庭の事情などから就労期間が短く、自分自身の年金額が比較的小さい家庭を考えてみましょう。
年金額が高い配偶者が先に亡くなれば、残された配偶者にとって、その人の就労記録に基づく遺族年金が老後の重要な収入源になる可能性があります。
SSAによると、残された配偶者の遺族年金は、受給開始年齢などによって、亡くなった配偶者の給付を基準としておおむね71.5%から100%となります。また、遺族年金には独自のFull Retirement Ageがあり、66歳から67歳の間となります。
つまり、
「自分はいつSocial Securityを受け取りたいか」
だけではなく、
「自分が先に亡くなった場合、配偶者には何が残るのか」
という視点も加えて受給開始時期を考えることが大切です。
遺族年金には「どちらを先に受け取るか」という選択肢があります
遺族年金の特徴の一つに、自分自身の老齢年金との受け取り方を検討できる場合があることがあります。
例えば、自分自身のSocial Security Retirement Benefitと遺族年金の両方に資格がある方の場合、
遺族年金を先に受け取り、自分自身の老齢年金を後まで待つ
という方法が有利になることがあります。
自分自身の老齢年金は70歳まで受給開始を遅らせることによって増額することがありますので、先に遺族年金を受け取り、70歳になってから増えた自分自身の老齢年金へ切り替えるという考え方です。
反対に、自分自身の老齢年金を先に受け取り、遺族年金がより高くなる年齢まで待ってから切り替える方がよい場合もあります。
SSAも、遺族年金については、一方のBenefitを先に受け取り、後から別のBenefitへ切り替えられる場合があると案内しています。
これは通常のSpousal Benefit(配偶者給付)との大きな違いの一つです。
そのため、配偶者を亡くした後、
「とりあえずSocial Securityを申請しよう」
とすぐに決めるのではなく、
自分自身の老齢年金はいくらになるのか、遺族年金はいくらになるのか、それぞれ何歳から受け取るとどう変わるのか
を確認してから申請することが大切です。
まだ働いている場合にも注意が必要です
配偶者を亡くした時点で60代前半で、まだ仕事をしている方もいるでしょう。
遺族年金は一般的に60歳から受け取り始めることができますが、Full Retirement Ageより前に働きながら受給する場合には、給与などのEarned IncomeによってSocial SecurityのEarnings Limitが適用され、給付の一部が一時的に差し引かれることがあります。
ですから、
「60歳になったから、すぐ遺族年金を申請した方が得」
とは限りません。
現在の給与、今後何年間働く予定なのか、自分自身の老齢年金、遺族年金、その他の資産や収入を一緒に見て判断する必要があります。
Social Securityは一つの制度ですが、実際のRetirement Planningでは、Social Securityだけを切り離して考えることはできません。
小さな子どもがいる家庭では、遺族年金の意味がさらに大きくなります
遺族年金を「高齢になった配偶者のための制度」と思っている方もいるかもしれません。
しかし、実際には若い家庭にとっても重要な制度です。
亡くなった人に未成年の子どもがいる場合、条件を満たせば子どもにも遺族給付が支払われることがあります。
現在のSSAの案内では、原則として未婚で17歳以下の子ども、または18歳から19歳で小学校・中学校・高校にFull-Timeで在学している子どもなどが対象になる可能性があります。子どもの給付は一般的に亡くなった親の基準となるBenefitの75%ですが、家族全体にはFamily Maximumがあります。
さらに、亡くなった方の16歳未満の子どもを育てている配偶者は、通常の60歳という年齢に達していなくても給付の対象になる場合があります。
若い家庭で万が一の保障を考える場合、生命保険だけを見るのではなく、Social Securityから家族にどの程度の給付が見込まれるのかも確認しておくと、必要な保障額を考える材料になります。
帰国予定がある家庭は「日本に住んだ後」まで考えておく
アメリカで長く暮らした後、日本へ帰国する方も少なくありません。
その場合、
「アメリカを離れたらSocial Securityは受け取れないのでは?」
と心配されることがあります。
日本とアメリカの間には社会保障協定があり、日本に居住しているという理由だけで一律にSocial Securityの権利がなくなるわけではありません。日米社会保障協定には、一定の条件のもと、相手国に居住することだけを理由として給付を制限しないという規定があります。
ただし、国外でのSocial Security受給には、国籍、居住国、給付の種類、亡くなった方との関係などによって確認すべき事項があります。
さらに、日本へ帰国すると、Social Securityそのものだけではなく、
- 日本での税務上の取扱い
- アメリカのIRAや401(k)
- Medicare
- 銀行口座
- 為替
- 相続やEstate Planning
なども関係してきます。
そのため、帰国を予定している方は、「帰国したら考える」のではなく、アメリカにいる間から整理しておく方が安心です。
今すぐできるのは「夫婦二人分のStatementを見ること」
遺族年金について知ったからといって、今すぐ複雑な計算をする必要はありません。
まず行っていただきたいのは、夫婦それぞれのmy Social SecurityアカウントからSocial Security Statementを確認することです。
そして、少なくとも次のことを夫婦で確認してみてください。
自分自身の老齢年金はいくらになりそうか。
配偶者の老齢年金はいくらになりそうか。
どちらの年金予定額が高いのか。
どちらかが亡くなった場合、家族にどの程度のSurvivor Benefitが見込まれているのか。
夫婦二人から一人になったとき、住宅費などを含めた生活費をその収入でまかなえるのか。
ここまで確認するだけでも、Social Security Statementの見方は大きく変わってくると思います。
年金は「自分が何歳から、いくら受け取るか」だけの問題ではありません。
結婚している方にとっては、夫婦二人の老後と、どちらか一人になった後の生活を一緒に考える制度でもあります。
配偶者が亡くなったときは、自動的にすべての手続きが終わるとは限りません
実際に配偶者が亡くなった場合、葬儀社からSSAへ死亡の報告が行われることはありますが、それですべての給付手続きが完了するとは限りません。
遺族年金は現在オンラインでは申請できません。
SSAへ電話するか、Social Security Officeを通じて手続きを行う必要があります。すでにSpousal Benefitsを受け取っている場合にはSurvivor Benefitsへ自動的に切り替えられるケースもありますが、255ドルのLump-Sum Death Paymentなども含め、SSAへ早めに確認しておくことが大切です。
悲しみの中で、初めてSocial Securityの制度を調べ、婚姻証明書や離婚関係の書類を探すのは簡単なことではありません。
だからこそ、家族が元気な今、
「何を受け取れるか」だけではなく、「どこに何の書類があり、誰に連絡すればよいか」まで共有しておくことも、大切なFinancial Planningの一部だと思います。
まとめ
Social Securityの遺族年金は、単に「配偶者が亡くなったら、その人の年金を引き継ぐ制度」ではありません。
自分自身の年金との関係、受給開始年齢、働いているかどうか、未成年の子どもの有無、離婚・再婚、そして将来どの国に住むのかなどによって、受け取り方が変わる可能性があります。
そして、特に覚えておきたいのは、
夫婦二人で受け取っていたSocial Securityの合計額が、一人になった後もそのまま残るわけではない
ということです。
老後資金を考えるときには、夫婦二人の生活だけではなく、どちらか一人になった後の生活についても一度数字で確認してみてください。
Social Security Statementを夫婦で一緒に確認することが、その最初の一歩になります。
遺族年金の基本的な受給資格、未成年の子ども、離婚した元配偶者、再婚、同性配偶者、日本へ帰国した場合の取扱いなどについては、YouTube動画でも詳しく解説しています。
制度の全体像を知りたい方は、あわせてご覧ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別のSocial Security、税務、法務上のアドバイスを提供するものではありません。受給資格や受給額は個々の状況によって異なるため、実際の申請にあたってはSocial Security Administration(SSA)等へ最新情報をご確認ください。


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