S-Corporation(S-Corp)を運営する多くのオーナーが抱える悩みのひとつに、「自分の給与をいくらに設定すべきか」という問題があります。
給与を低く設定すれば税負担を減らせるように見えますが、実はこの判断を誤るとIRS(米国歳入庁)からの監査リスクが一気に高まります。今回は、CPAの立場から「合理的な給与(Reasonable Compensation)」の考え方と、その実務上のポイントを解説します。
給与を低くしすぎるとどうなるか
S-Corpでは、オーナーが株主兼従業員(Shareholder-Employee)として自らに給与を支払います。この給与部分には社会保障税(Social Security Tax)とメディケア税(Medicare Tax)が課されますが、分配(Distribution)には課税されません。
このため、「給与を極端に少なくして、残りをDistributionとして受け取る」ケースがよく見られます。
しかしIRSは、「オーナーが会社の業務に実質的に従事している場合、Reasonable Compensationを受け取っている必要がある」と定めています。
給与が不当に低いと判断された場合、IRSは分配金の一部または全部を給与として再分類(Reclassification)し、未払いの雇用税・ペナルティ・利息を追徴する可能性があります。
Reasonable Compensationの判断基準
IRSは、合理的な給与を判断する際、次のような要素を考慮します。
- 業務内容と責任の範囲
同業種・同規模の会社で同じ役割を担う従業員がどの程度の報酬を得ているか。 - 業績と収益性
会社の利益水準に対して給与が不相応に低い場合、監査対象になりやすい。 - 勤務時間・役割の割合
複数の役員がいる場合は、実際の貢献度や時間配分によって給与額を調整。 - 地域の賃金水準
同業の給与相場(例えばBureau of Labor Statisticsなどのデータ)を参考に。 
これらを踏まえると、「オーナーが他社に雇われた場合、いくらもらえるか」という観点が、実務上の目安となります。
よくある誤解と失敗例
「利益が少ないから給与を$10,000だけにした」
 → 給与が低すぎると、IRSから“実質的に給与を取っていない”と判断される可能性。
「会計士に言われた金額だから大丈夫」
 → その金額が“合理的”である根拠がなければ、IRSは受け入れません。
「他のS-Corp経営者も同じようにしている」
 → 個別の業種・役割・利益構造によって妥当額は大きく異なります。
CPAが推奨する実務対応
Reasonable Compensation Study(報酬分析)を参考にする
 業種別の報酬統計を利用し、根拠を明確にすることが有効です。
毎年の業績に応じて給与を見直す
 利益が増えても給与を据え置きにしていると、翌年以降に修正を求められることも。
Distributionとのバランスを記録に残す
 給与額を決めた理由や、他の役員との比較データを保管しておくことで、監査時の防御力が上がります。
まとめ:給与設定は「節税」ではなく「リスク管理」
S-Corpオーナーの給与設定は、単なる節税テクニックではなく、リスクマネジメントの一部です。
適切な給与水準を設定することは、IRS監査を防ぐだけでなく、将来の社会保障給付(Social Security Benefits)にも影響します。
給与を減らしすぎることで、結果的に自分の年金受給額が下がるという長期的リスクも見逃せません。
もしご自身の給与設定に不安がある場合は、税務上・会計上の両面から確認することをおすすめします。
Hiromi K. Stanfield, CPA Inc. では、S-Corpオーナー向けの給与最適化・Distribution戦略についてもご相談を承っています。

  
  
  
  
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